三井住友銀行 八木氏が語る、強い「個」を活かし、根本から業務を変革するAI戦略

現在、株式会社三井住友銀行とストックマークは日本の生成AI開発力を強化するため、経済産業省とNEDO主導の「GENIAC」プロジェクトにおいて、複雑なデータをAIReady化するための取り組みを共に推進しています。本対談では、2026年4月に新たな中期経営計画を発表し、ITトランスフォーメーションで大胆な変革を推進される八木様にAI活用を通じたこれからのビジョンや、AI時代における人間の仕事の醍醐味について、ストックマークの林が伺いました。

新たな中期経営計画が描く「抜本的な組織変革」

ストックマーク林(以下、林):本日はお忙しい中、ありがとうございます。この4月から新たな中期経営計画がスタートしましたが、八木様のミッションとAI活用方針についてお聞かせください。

SMBC八木氏(以下、八木):我々は「世界をつなぐ日本発のトラステッド・パートナー」というビジョンを今月新たに掲げました。その実現に向け、ITを原動力としてSMBCグループ全体の抜本的な変革を推進すべく、「AIトランスフォーメーション推進部」を発足させました。

これまでの弊行のAI活用は、現場主導でボトムアップに進めてきました。その結果、PoCを含め数百件のプロジェクトが立ち上がり、組織内で「AIを使いこなそう」というモメンタムが生まれたことは大きな成果です。しかし、これからは点での活用に留まらず、全社的な戦略のもと、銀行や各社業務プロセスそのものを根底から作り変えるAI戦略が必要だと考えています。

収益を支える「形式知化できない領域」を明確化する価値

林:今回のプロジェクトのテーマでもある「暗黙知」について伺わせてください。銀行業務において、マニュアル化されている領域と、そうでない領域の比重をどう捉えていますか。

八木:事務オペレーションなどは、すでに8割方が形式知(マニュアル)化されています。しかし、実際に収益を生み出し、他行との差別化要因となる領域、例えば高度な与信判断などは、その大半が「暗黙知」の中にあります。

私はキャリアの前半で十数年プロジェクトファイナンスに携わってきましたが、当時、長く本業務に関わる担当者間で時折話題に上ったのが「違和感」でした。「書類上のストーリーは完璧で美しい。けれど、どこか腑に落ちない違和感がある」という感覚的な部分です。そして、そうした案件は、後になって実際に問題が起きることが多い。

この「違和感」の正体を完全に言語化するのは難しいかもしれません。しかし、少なくとも「どの部分がデータ化(形式知化)可能で、どの部分が人間にしかできない判断なのか」を切り分けることは極めて重要です。判断プロセスが明確になれば、全てを形式知化できなくとも、組織としての教育のあり方をより本質的なものへと進化させることができるはずです。

戦闘力の高い「個」の力を、組織の「戦略」へと昇華させる

林:組織を根本から変えるための「カルチャー変革」については、どのようなアプローチを考えていますか。

八木:カルチャーを変えるには、経営層がメッセージを繰り返し発信し続けることが不可欠です。しかし、スローガンで終わらせないためには、それをミドルマネジメント層が自分たちの領域の言葉に翻訳し、具体的なイメージを持って、繰り返し現場へ伝達していかなければなりません。

当行の強みは、現場が「これをやるべきだ」と判断した際に突き進む「フットワークの軽さ」と個々の「戦闘力」の高さにあると考えています。こういった個の力をバラバラにせず、共通の戦略として体系化し一体となって動ける基盤を作ること、現場の熱量を具体的な業務変革へと結びつけることこそが、我々の目指すカルチャー変革の姿です。

仕事の醍醐味となる「共創の喜び」を、仕事の9割に

林:AIが進化し、業務が再定義される中で、働く人間の「楽しさ」「醍醐味」はどう変化していくと思われますか。

八木:私自身の経験を振り返っても、一番の喜びは「誰かと共に議論し、新しいものを創り上げること」にありました。プロジェクトファイナンス時代、お客様と膝を突き合わせてプロジェクトの初期から事業計画を練り上げ、入札を勝ち抜き、関係者との長い折衝を経て、無事に調印式を迎えた時の喜びは格別でした。

これまでの仕事は、全業務を100とすると、80から90は地味で泥臭い作業であり、残りのうち心から楽しいと思える瞬間はわずか1だったかもしれません。ただ、その1%の喜びがあるからこそ、残りの99%を乗り越えられた。

しかし、もしAIがその99%の作業を肩代わりしてくれるなら、これまで1%しか味わえなかった「共に創り上げる喜び」を、仕事の9割にまで広げられる。非常にワクワクする時代になるのではないかと思っています。

林:まさに「AIによって仕事が奪われる」のではなく、「人間がより人間らしい仕事に没頭できる」ようになるということですね。

八木:その通りです。「AIによって仕事がなくなる」という言説もありますが、私はそうは思いません。変わるのは「仕事の質」です。定型的な業務やマニュアル化されたオペレーションはAIが驚異的なスピードで処理していきますが、人間に回ってくる「本質的なお客さまとの折衝」や「高度な判断業務」の量は、むしろ劇的に増えるでしょう。

自ら考え、判断し、決断する。「仕事の楽しさ」に向き合う時間が増えていく。この変化をポジティブに捉え、新しい時代の仕事の醍醐味を存分に楽しんでほしいと願っています。